推しは「火が出るような球」の背番号43、島内颯太郎の快投に期待|カープ道リレーコラム第4回
「やっぱり、来たな」。カープ担当3年目の私は、少し誇らしげな気持ちで最近のカープの戦いぶりを見ている。ある速球派右腕が活躍しているからだ。
開幕の特集紙面に登場
提供:朝日新聞社
朝日新聞では毎年、プロ野球の開幕にあわせて特集紙面を掲載している。
今年は野球好きで知られ、独自の視点を持つ歌手の河野万里奈さんに登場していただき、12球団の注目選手と「推し」ポイントを語ってもらった。
河野さんがカープの選手の中から「推し」に挙げたのは、島内颯太郎投手だった。その理由を今年3月30日朝刊に掲載の記事から引用する。
“「佐々木朗希投手(ロッテ)や大谷翔平投手(大リーグ・エンゼルス)ら、直球がすごい選手はいますが負けていない。そこだけ周辺温度が違うんじゃないかというくらい、火が出るような球です。抑えの栗林良吏投手につなぐ勝利の方程式になれれば、かつての阪神のJFK(ジェフ・ウィリアムス、藤川球児、久保田智之)に匹敵するのでは、とも思います」”
プロ5年目を迎える島内投手の速球には、私も注目していた。子どもの頃からとにかく速い球をなげるピッチャーに憧れていた。島内投手が150キロ台の力強いストレートを次々と投げ込む姿には、清々しさを感じる。
ただ、取材をしていて申し訳なく思うのは、中継ぎという役割の投手は新聞記事で取り上げる機会が多くはない。どうしても投打のヒーローをクローズアップすることになる。
開幕特集の紙面が掲載される直前、私は島内投手へ河野さんから「推し」に選ばれたのを伝えた。
すると、島内投手は「僕がフォーカスされることってなかなかないので・・・。えっ、これだけ選手がいて僕ですか?! ほんとに?」と驚いた様子で言った。
数日後、紙面を島内投手に手渡した。フロントページには12球団の「推し」が並び、私の撮影した島内投手の写真が中央付近にあった。
「ありがとうございます、うれしいです」。その日は雨が降っていた。島内投手は新聞の入った封筒が濡れないようにと、自らのバッグに丁寧に収めた。
5年目で初めてですからね
2016年からのセ・リーグ3連覇後、カープは4年連続Bクラス(4位以下)と低迷が続く。その要因の一つが、リリーフ陣の安定感が欠けていることだ。しかも今シーズンは、絶対的な守護神の栗林良吏投手が負傷で離脱した。
苦しい状況の中で、島内投手は奮闘している。セ・パ交流戦開幕前の段階では、18試合に登板して1勝1敗1セーブ、防御率1・76と安定感がある。
5月26日の東京ヤクルトスワローズ戦では、2点リードの六回、2死一、二塁のピンチでマウンドへ。オスナ内野手をセンターフライに打ち取った。続く七回もイニングまたぎで続投し、三者凡退に抑えた。
チームを救う好投で、島内投手は2020年10月31日以来のプロ2勝目を挙げた。
ヒーローインタビューに呼ばれたのは、もちろん島内投手だ。初勝利した日のナゴヤドーム(当時)以来となる「お立ち台」で、マツダスタジアムでは初めてだった。
帰りがけの島内投手にヒーローインタビューの感想を問うと「5年目で初めてですからね」。照れながら苦笑いを浮かべつつ、続けた。
「スタンドに音が跳ね返って、自分の声が聞こえない。今まで経験したことがない感覚。みんなが『何を話しているかわからない』と言っていたのは、ああこれかと」
中継ぎ投手がヒーローインタビューに呼ばれる機会は数少ない。マウンドでの投げっぷりとは対照的に、初々しい様子だった。
島内投手は今シーズンの好調ついて「自分の球に自信を持って投げているのは一番かなと。自分を疑わず、ゾーン勝負で打たれたら仕方がないとっていうくらいの気持ちで投げています」と話す。
新井貴浩監督が就任して新体制となり、首脳陣からは「打たれるのはOKと言ってもらっている。そこが一番割り切れている要因です」という。
5月28日のヤクルト戦では、九回にマウンドへ立ち、無失点で切り抜けて勝利に導いた。島内投手にクローザーへの思いを聞いたことがある。「栗林の姿を見ていて、すごいプレッシャーなんだろうなと思っていた。でも、やってみたいです」。この登板がプロ初セーブとなった。
強いチームには、必ずいいリリーフがいる。今シーズン、背番号43の快投が続いていけば、カープの見どころが増えていくはずだ。
ライター/辻健治(朝日新聞社)
広島ホームテレビで毎週水曜深夜に放送されている「カープ道」。カープを知らない、興味ない、乗っかりたい人必見のカープ学習番組です。CarpCarpCarpでは、毎週木曜日に番組出演者によるリレーコラムを掲載中です。