CSには上本崇司が必要不可欠。怖優しい會澤さんからの突然の電話。
「初の4番出場だったときはスタメン発表のときファンの皆さんもざわついてましたよね」
今季はレギュラー陣の離脱が続き、プロ入り後初めてとなる4番でのスタメン出場のときの話をした。たまたまこの試合を現地で観戦していた私も「おおおーーー!!!」と声を上げたひとりだ。
上本崇司。昨シーズンはやっちゃろうや!と勢いそのままにキャリアハイを達成。今季がプロ入り11年目、”彼らしさ”は健在だった。自分がレギュラーになったとは一度も思ったことがない。「ちゃんとやっていないと僕なんかは使ってもらえないんで」と自分を分析する。
■嫌でした。試合に出続けたかった
2023年シーズンは新しく新井貴浩監督になり、チームは夏場、首位を走る阪神タイガースを追い最後まで優勝を諦めていなかった。そんな中、8月17日のマツダスタジアムでの試合。ゲーム差8、首位阪神との大事な直接対決。この日の上本は1番センターで先発出場し、チャンスで迎えた第2打席で見事先制タイムリーヒットを放った。しかしその直後、走塁の際にバランスを崩し左太もも裏に嫌な痛みが走った。
「『いけるか?いけないか?』と言われて、チーム状況っていうよりは個人的になるんですが、せっかく試合に出れているのに、その機会を逃してしまうことが本当に嫌で『出たいです。いけます』と伝えました」
しかし首脳陣は「残り試合もある中で、ここで無理をして悪化させてしまい、残りの試合がダメになるより、しっかり治療して早く戻ってきてもらいたい」と判断をし、この試合は途中交代、そして翌日には登録抹消となった。
「新井監督や藤井ヘッドコーチからは『完全に治してから戻ってきてほしい。崇司は必要だから、代えがきかない選手だから』と直接言ってもらいました。でも自分自身、そうとは思っていないので、とりあえず登録抹消からの10日間で早く治して、また一軍に戻らないとなって気持ちでした」
しかし、リハビリは順調には進まなかった。慎重にトレーニングに取り組んでいた上本だったが、痛みが再発し復帰は延期となった。
「もうダメだ」
必死に頑張ってきたが、2回目の痛みの再発があったときに心が折れてしまった。
「家に帰りたくなくて、ひとりになりたかったんで、嫁に『またやったわ、ちょっと1人でどっか行ってくるわ』とだけ伝えて、帰り道のパーキングに車を停めて車内で過ごしていました」
もう一軍には戻れないだろうな、と頭には嫌な言葉がよぎってしまう。
「もう諦めよう」
ふとそう思ったときに、突然上本の携帯電話が鳴った。
「車内にひとりでいるときに突然會澤さんから電話がかかってきて、電話に出るといきなり『大丈夫か?』って言われました」
また痛みが再発し、きっとひとりで苦しんでいるだろうと會澤からの心配の電話だった。
「ゆっくり頑張れよ」
そう伝えられた。
「怖優しい會澤さんからの電話で一度心が折れたのが、もう一度やろうって、気が引き締まりました」
■家族との時間
リハビリ期間中は家と大野練習場を往復する毎日だ。いつもなら必ずどこかで遠征試合があり、一年の半分は家にいないパパだ。
「子供たちはパパが珍しく家にずっといるから純粋に喜んでますね。嫁さんは僕が1人でいるのが好きなのを知っているんで『どっか行ってきていいよ』って気を遣って言ってくれたりします」
以前は”パパの真似”と言ってセンターの守備でダイビングキャッチをする上本の真似をし、ベッドに飛び込む娘だったが、この期間は野球の話をほとんどしなくなったという。
「テレビに映ってないんで、カープのことは何も言ってこなくなりました。いつもだったら試合を観たあとに『パパかっこよかったね』みたいな会話があったんですけど、今は一切ないですね」
上本に今何が支えになっているのか?と問うと。「自分のためです」と返ってきた。
「自分のためにやることで家族のため、チームのためにも繋がる。目の前のことをひとつずつ頑張っています」
9月17日現在、上本はファームでの練習に参加している。
「患部の方は痛みは完全に取れている状態で、あとは体力的な面だけかなと思っています。7割ぐらいまでは戻れてるかと」
このまま順調にいけばまずはファームの試合から実戦復帰だ。今の素直な気持ちは?と聞くと、
「僕が戻ってどうできるかって不安が一番です。ただ、与えられたところでキチンと仕事ができればいいなと思っています」
と、彼らしい冷静な答えが返ってきた。この先に待っているクライマックスシリーズには上本崇司は必要不可欠だと思う。彼ならなんとかしてくれるんじゃないかというワクワク感がある。きっと大事なところで、魅せてくれる。
–最後に、奥様から
「夫がいない時はいつも私と子供らでカープ観てます。2歳の息子は『あーぷ!あーぷ!あーぷ!』ってそれ行けカープ歌いますよ(笑)。あと、夫は携帯でカープの試合展開をずっと気にしてるのを私は知っています(笑)」
当たり前だが、家族は崇司の一番の味方だ。そろそろだ。子供たちがテレビの前で「パパ〜!!あーーぷー!!」と応援する日が戻ってくる。
取材・ライター/ゴッホ向井