133球の力投、プロ初完封勝利を挙げたアドゥワ誠。後半戦で再びチームを勝利に導く

今シーズン、横浜スタジアムで開幕戦を迎えたカープは第3戦目でチーム初勝利を挙げた。

先発のアドゥワ誠が5イニングを投げ1失点、そしてリリーフ陣が無失点でバトンを繋ぎ、DeNAに5-1で勝利した。

 

5年振りとなる先発での白星を手にしたアドゥワは「1人ではここまで来れなかったと思うので。リハビリのときであったり、色んな方々に支えられて、今ここにいると思います」とヒーローインタビューで語った。

普段からあまり多くは語らず、テンションの浮き沈みにも表情が変わらない男だが、心には熱いものを秘めている。

 

どんな人間でも失敗することは必ずある

松山聖陵高を卒業しカープへ。プロ2年目の2018年には53試合に登板し存在感を放った。

しかし、20年に右肘の手術を受けて長いリハビリ期間へ。翌年の21年、22年は一軍登板も0で終わった。

手術をすると決めた時点である程度の覚悟はできていたという。

苦しい日々が続いても気持ちは変わらず“一軍でチームの勝利に貢献したい”と常に前を向いていた。

 

同期には同じく肘の手術を受け、同じ境遇を味わった床田寛樹投手や高橋昂也投手の存在があった。

当時の話を聞いたり、2人が投げている姿を見て刺激をもらい乗り越えてきた。

「僕たちの代の同期は矢崎さんも坂倉も含めてみんな友達みたいな関係ですね」と本人が話すとおり、この2016年ドラフト組は年齢の壁がなく、それぞれに話を聞いても本当に仲の良さが伝わってくる。

毎年シーズンが終わってから同期会を開くほどの関係性だ。

手術からの復活へ。アドゥワは今シーズン自身初となる開幕ローテの座を掴み取った。

オールスター前までの前半戦一軍成績は13試合に先発し、5勝3敗だった。

7月に入り登録抹消になったが、7月30日にファームの試合で登板すると5イニングを投げて打たれたヒットは1本、無失点ピッチングと安定感を見せた。

 

そして8月6日、アドゥワは再び一軍のマウンドに戻ってきた。

東京ドームで行われたジャイアンツ戦。9連戦という長い戦いの頭を任された。

初回を三者凡退に切って取ると、5回裏1アウトまでノーヒットピッチング。

終わってみればプロ入り最多の133球の力投で、プロ初完封勝利を挙げた。

 

ヒーローインタビューではチームの仲間たちへの感謝と、8月6日の試合というところにも触れた。

「今日は広島にとっても日本にとっても特別な日なので、こういう日に勝てたのは何か縁があるのかなと思います」。

彼の好きな言葉は“失敗するのは当たり前、成功したら男前”

誰に言われたとかでもなく、何で知ったのかも忘れたそうだが、高校時代から大事にしている言葉で、野球部時代には帽子のツバの裏にも書いていた。

「僕はあまり自信がないので、自分の事を過大評価することが無いです。どんなに凄い人でも絶対に失敗はするものだと思うので、自分に期待をしすぎずにやれることを出来るように頑張っています」。

周りから注目をされても浮き足立つ事がなく、常に冷静さを保つ。彼と話していると様々な言葉でその性格が伝わってくる。

そんな彼を優しくずっと見守ってきたのが家族だ。

「母には小さいときから迷惑ばかりかけてきました。あーしなさいこーしなさいっていうのは全く言われず、やりたい事を見守りながらずっと応援してくれていました。それがなければ今の自分はいないと思うので感謝しています。これからも野球で活躍している姿を見て笑顔になってもらえるように頑張ります」。

アドゥワはプロ入り3年目20歳のとき、2019年5月12日「母の日」に行われた試合で、プロ初の先発勝利を完投で飾った。

この日、本拠地マツダスタジアムのお立ち台には鈴木誠也、磯村嘉孝と共に3人で上がり、最後に「テレビの前のお母さん、俺やったよー!!」と叫んで締めた。

あれから5年後、プロ8年目の25歳で節目の100登板を迎えて初完封勝利。

 

決して平坦な道のりではなかったが、そんな辛い時期を乗り越えてきた過去があるから今がある。

これからもアドゥワらしく歩んでいって欲しい。彼らしいクールなヒーローインタビューも好きだ。

そして、一軍で投げている元気な姿を見られるだけでご両親も安心してくれていると思う。

 

ライター・ゴッホ向井

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