クローザー栗林良吏、次の舞台へと歩きだす。

WBCの余韻がまだ残っている。早起きして観た、感動した、ドラマみたいな結末だった。そんな方もまだまだ多いだろう。

日本代表は決勝でアメリカを破り、見事に世界一に輝いた。その大舞台に、本来ならこの男も立っていたはずだ。

広島カープのクローザー”栗林良吏”。

 

1年目からカープの抑え投手としてフル稼働し、世間からは「失敗しない男」とまで呼ばれ、新人王に選ばれた。

2021年に開催された東京オリンピックでは、日本の守護神として金メダルを獲得した。

 

あれから2年後、もちろんWBCを戦う日本代表メンバーにも呼ばれた。

大リーグで活躍する大谷翔平やダルビッシュ有など、夢のようなメンバーと言われた今回の日本代表に唯一カープから招集された栗林だったが、大会途中で腰の張りが出てしまい、準々決勝を前に離脱が決まった。

 

栗山監督も簡単な決断ではなかっただろう。

「久々に苦しい選択をしなきゃいけなかった。彼の野球人生のために決断しなきゃいけないと思った。クリの魂みたいなものは間違いなくある。これからカープで投げる姿を見てもらいながら、みんなが感じてくれると信じている」と声を詰まらせながら語った。

 

腰の違和感を感じたとき、最初に栗林の脳裏に浮かんだのは”申し訳ない”という想いだったそうだ。

「やっぱり申し訳ない気持ちが一番大きく最初に出てきましたし、戦力になれなかった申し訳なさ、あとは余計なことを考えないといけなくなったと思うので、チームに対して迷惑をかけちゃったなという気持ちが一番です」。

 

すぐに切り替えるのは難しかっただろう。

しかし、新井貴浩監督からかけられた言葉で少しだけ気持ちは軽くなった。

新井監督「悔しい気持ちもあると思うけど、切り替えるのは難しいと思うから、それは時間をかけてチームのために万全で戻ってきてもらえたら大丈夫だよ」。

声をかけたのは新井監督だけではない、仲良しのチームメイト森浦大輔投手からも朝イチで心配の電話があったという。

 

 

心が安らぐ家族との時間

広島に戻ってきてからの安らぎは家族との時間だった。現在1歳と3ヶ月の娘がいる。

あまり怒らないパパ。それが家庭での栗林の姿だ。

「赤ちゃんの気持ちになって一緒に遊ぶのが癒しの時間です。同じ事を繰り返すのが赤ちゃんだと思うので、同じ事を繰り返してもずっと繰り返しやってあげるのを心掛けています。可愛いですし、凄く癒されるので、家に帰るのが楽しみです。毎日一緒にいれるわけじゃないので遊ぶ時間は自分にとっては凄く貴重な時間、大切にしたい」。

 

仲間や家族、周りには常に理解者がいた。

そんな”失敗しない男”は実は繊細な選手だった。

「逆転されたときとかは”もう変えて欲しいな”と思うこともあるし、マウンドに上がるまでは”出番回ってほしくないな”と思ってしまうときもあります。ただ気持ちの左右はありますが、やることを変えずに続ける事で、常に同じ身体の状態でマウンドに上がれるかなと思っています」。

 

こんなにも正直に話してくれる選手は少ないだろう。

“ブルペンでは必ず15球”
“登板前最後の5球はストレート、カットボール、カーブ、フォーク、ストレート”
“グラウンドには必ず左足から入る”
“マウンドに向かうときは立ち止まり帽子を取っての一礼”

などなど、他にも数多くある栗林のルーティンだが、一番印象的な姿は、”野球の神様”に祈ってマウンドに上がる姿だ。

 

 

新シーズン、新登場曲でファンと共に。

今季初登板は4月4日マツダスタジアムでの地元開幕戦。

4-4と同点の場面で9回表のマウンドに上がった栗林だったが、勝ち越しを許し、そのまま敗戦投手になってしまった。

 

試合後の新井監督の言葉は、カープファンの気持ちを代弁してくれていたはずだ。

「彼はうちのクローザーだから、信頼は変わらない」。

 

リベンジは3日後の4月7日におとずれた。27球、スコアボードに0を付けた。

今季の初セーブは珍しく、大きく吠えた。

「今シーズンからメジャーリーグのディアス投手の登場曲を真似させてもらいました。(今季からティミー・トランペットの「Narco(ナルコ)」に変更)最初は父親から「この登場曲かっこいいよ」と連絡が来て、「たしかにかっこいいね」ぐらいで終わってたんですけど、新井監督にも「もし登場曲にそんなにこだわりが無いなら、この登場曲もいいんじゃない?」と勧められました。監督からは「黒田さんもカッコいいって言ってたよ」と言ってもらえたので、この曲が良いなって。みんなで一緒に作り上げられるような曲なので、ファンの皆さんと一緒に盛り上がる曲になっていったら嬉しいなと思います。一緒に戦って欲しいです」。

 

栗林は前を向いている、カープのために、ファンと共に、家族と共に。

WBCは3年後の2026年だ。

きっと栗林も日の丸を背負って戦っていることだろう。大丈夫。みんなが信頼してる。

 

取材・ライター/ゴッホ向井ブルー

 

LINE はてブ Pocket