カープが女子野球振興に携わるワケとは? 女子野球W杯が広島で9月13日開幕

皆様、今年の9月に広島県三次市で女子野球ワールドカップが開催されることをご存知でしょうか。さらに、この大会で日本は現在6連覇しているということを。正直に申し上げると、筆者である私は、知りませんでした。

そして広島で野球と言えば広島東洋カープ。そのカープが女子野球振興に携わっていることはご存知でしょうか。小学生・中学生広島県選抜チームのサポートを行い、その監督がOBの浅井樹さん(中学生チーム)桒原樹さん(小学生チーム)が監督として指導を行っています。さらに、今回のワールドカップのPRにカープが協力しているそうです。

なぜ、プロ野球チームであるカープが女子野球振興に携わるのか。その理由を探るべく、カープ球団に取材を申し込みました。

取材を受けてくれたのは、広島東洋カープ社長室野球振興グループ課長の三雲曉(みくも・ひかる)さん。野球一筋の人生を歩んできたという三雲さんの出身高校は神奈川・慶應義塾高校。奇しくも、インタビュー取材をした日の前日、107年ぶりの夏の甲子園優勝を果たしていました。

「優勝、おめでとうございます」

「ありがとうございます!!!!!」

とびっきりの笑顔が返ってきました。

広島東洋カープ 三雲曉さん

 

カープは女子野球ワールドカップにどう携わるのか

前日の甲子園の話題から、雑談のように始まった取材。まずはカープとして、今回のワールドカップにどのようなアプローチをしているか伺いました。

 

まずは『知ってもらう』ということに重点を置きました。女子野球のW杯が日本の広島県三次市で開催されること、日本は大会7連覇を目指していること、女子野球日本代表は通称「マドンナジャパン」と呼ばれていること。メディアの方々にも協力していただきながらPRすることを目的として動き始めました。具体的には、大会を3カ月後に控えた6月13日(火)に、マツダ スタジアムで公式記者会見を行いました。全日本女子野球連盟 山田博子会長、三次市 福岡誠志市長、日本代表の岩見香枝選手(埼玉西武ライオンズ・レディース)、村松珠希選手(はつかいちサンブレイズ)が登壇し、カープからも菊池涼介選手が応援に駆けつけてくれました。この会見には、いつもカープを取材してくれている番記者の皆様が、全員集まってくれてとても嬉しく思いました。また、7月には事前合宿で代表選手が広島県に集まる機会があったので、マツダ スタジアムでの公式戦にマドンナジャパンの選手を招待し、試合前にW杯にむけたセレモニーを行いました。大会本部からポスターもたくさんいただいたので、マツダ スタジアム入口やグッズショップ、球団の事務所にも張っております。」

ー広島で開催されると分かった時点で動き出したのですか?

「三次市で女子野球W杯が行われると決定した時に、すぐに担当の方から連絡がありました。三次市の福岡市長にはキャンプ地の日南までお越しいただき、松田オーナーと一緒に報告を受けました。球団としてお手伝いできることがあればとお話をさせていただきました。広島県では、三次市と廿日市市が全日本女子野球連盟より「女子野球タウン」として認定を受けており、常に担当者とは密に情報交換をしております。」

ー大会期間中はどのようなサポートをするのでしょうか?

「球団職員を通訳として派遣させていただくことになりました。球団広報の陳浚錡(チェン・チュンチー)は中国語、ドミニカ共和国にあるカープアカデミーの運営チームに所属している藤本祐子はスペイン語の通訳として参加させていただきます。」

 

女子野球振興を始めたきっかけは佐伯高校女子硬式野球部

2021年8月。女子高校野球の決勝戦が、初めて甲子園で開催され、女子野球選手にも「甲子園」という目標ができました。

広島県には女子硬式野球部のある高校が3校あります。山陽高校、広陵高校、そして佐伯高校です。佐伯高校はカープが女子野球振興を始めたきっかけのひとつでした。

 

ーなぜカープは女子野球振興を始めたのでしょうか?

「始まりは佐伯高校の存在です。佐伯高校は2021年に生徒数が減少したことにより「廃校の危機」と新聞に出ておりました。野球をプレーしたい高校生女子選手の貴重な受け皿であるのに。その時に初めて女子野球振興に対しての思いを抱きました。女子野球PRデーと題して、マツダ スタジアムでのオープン戦時にPRイベントを行い、試合前に佐伯高校のバッテリーに始球式も務めていただきました。球団はきっかけ作りだけで、メディアの皆様が本当に一生懸命取り上げてくれて、女子硬式野球部への入部者も増えたと聞いています。感謝の気持ちでいっぱいです。

そこから、「広島県の女子野球の現状」を把握するために動き始めました。

広島県軟式野球連盟の方にお話を聞くと、県内に男子と混ざって野球をプレーする小学生女子は毎年100人程度いるようですが、中学生になると『受け皿がない』などの理由で野球から離れてしまう選手が多くいることが分かりました。

廿日市市で活動している広島レディース、三次市や府中市で活動しているブレイブガールズ広島など中学生女子だけの軟式野球クラブチームも県内にはあり、福山でもローズファイターズという新しいチームが動き出そうとしています。これらのチームとも連携を取りながら、小学校で野球を始めた選手が中学・高校まで続けられるような環境作りを応援していきたいと思っています。」

ー具体的にはどういった活動をしていますか

「広島県軟式野球連盟と協力しながら、広島県の中学生女子軟式野球選抜チーム「オール広島ガールズ」、広島県小学生女子軟式野球選抜チーム「ガールズ広島」の活動を球団でサポートしています。監督をカープOBの浅井樹と桒原樹がそれぞれ務めており、練習環境、遠征費用なども球団がバックアップしています。今年は中学生41名、小学生33名の選手が集まりました。『選抜チーム』ではありますが、小中学生女子選手同士の交流の場となり、コミュニティが拡がっていくことも目的として取り組んでいます。中学生『オール広島ガールズ』は、毎年8月に京都府で開催される全国大会「全日本中学女子軟式野球大会(SPトーナメント)」に広島県代表として出場いたします。小学生『ガールズ広島』は、毎年7月に石川県で開催される「NPBガールズトーナメント」に広島県代表として出場いたします。

また、選抜チームの活動を知ってもらうために、女子選手が広島県のどこでプレーしているのかを把握する作業から始めました。情報を提供してもらえるように、広島県23市町、岩国市の役所に、協力依頼を兼ねて訪問しました。球団の取り組みを記した「リーフレット」を持参すると、学校に配布してくれる行政もあり、少しずつではありますが子ども達への浸透を感じています。女子選手がいると情報が入れば、チームにアポイントを取って練習場所まで足を運ぶということもしています。」

ー最初言っていた目標のように高校まで野球をやる選手が増えているのですね。

「まだ始めたばかりなので増えたかどうかは分かりませんが、「オール広島ガールズ」に所属する今年の中学3年生も「高校でも野球をしたい」と張り切っている選手が多く、進学するまでの間にできる限りのサポートをしてあげたいと思っています。高校に進学すると軟式球から硬式球に変わるので、硬式球に慣れるための練習会を企画したいと考えています。」

 

オール広島ガールズ 浅井監督(球団提供)

 

ーこの活動をプロ野球チームであるカープが行う意味はどこにあるとお考えでしょうか?

「僕は父から野球の楽しさを教わって野球を始めました。気が付けばこの年齢になっても野球に関わり続けていて、いつまでも魅了され続けています。

記者さんもそうだったかもしれませんが、お父さんや近所のお兄ちゃんから野球の楽しさを知るきっかけを与えてもらっていた時代があったと思います。今一緒にプレーをしている女子選手たちが将来大人になった時に、子供たちのキャッチボール相手になってくれる、子ども達に野球の魅力を存分に伝えてくれる、お父さんだけではなくお母さんもキャッチボールが上手で子どもに教えてくれる、そんな文化を広島から発信していきたいと思っています。

プロ野球界という目線で見たら、さらにお母さんがお父さんと子ども達を球場に連れてきてくれたら、さらに嬉しいですね!」

 

巨人、阪神、西武は女子チームがあるけどカープはどうなるの?

読者の皆さん、今回のワールドカップのメンバーをぜひ見てみてください。(下のリンクから見てください)

侍ジャパン女子代表 カーネクスト presents 第9回 WBSC女子野球ワールドカップ・グループB 出場選手について | 女子 | 選手発表 | 野球日本代表 侍ジャパンオフィシャルサイト (japan-baseball.jp)

所属チームに「読売ジャイアンツ」「阪神タイガース」「埼玉西武ライオンズ」の文字があります。読売ジャイアンツの女子チームのホームページには

①読売ジャイアンツが運営するクラブチーム

②プロ野球選手ではなくアマチュア選手なので、学業や仕事の合間で活動

と書かれています。他のチームと同じ、クラブチームで球団からお金をもらうわけではないアマチュア選手ではありますが、NPBの球団にも女子野球の波が広がっていることがわかります。将来的にはカープも?と期待せずにはいられませんでした。

 

ーカープがクラブチームとして女子チームを運営するという話はありますか?

「他の球団がトップチームを作っていることはもちろん知っていますが、広島県の女子野球の現状をみると、まずは小中学生の世代が安心して野球を継続できる環境を整備していくことが大事だと考えています。」

ー現段階としては、カープとして小中学生の受け皿に重点を置いているということですね。将来的に、上の受け皿が必要となればというイメージですか?

「もちろん必要になれば。広島県には恵まれたことに「女子だけのチーム」が少数ですが、既に社会人から中学生チームまであります。社会人チームの「はつかいちサンブレイズ」をはじめ、各世代のチームが一生懸命取り組んでくれているので、我々は草の根活動に集中して取り組むことができています。」

 

「女子野球も日常に」そのきっかけとなるワールドカップになってほしい

ーカープとしてでもいいですし、三雲さんの個人的な思いでも構いません。どんな大会になってほしいですか?

世界中の女子野球選手が集うW杯を通じて、子ども達が「野球を始めたい、野球を続けたい」と思ってもらえるような大会になってほしいです。そのために、球団としても大会を全力でサポートしていきたいと思っています。

聞きたかった話が聞けて大満足。でしたが、三雲さんの女子野球熱は収まりませんでした。

「選抜チームで預かる小・中学生に対して、浅井、桒原が試行錯誤して奮闘している中、「プロ野球選手ではなかった」という部分で僕は逃げていたと思います。

技術指導はさておき、野球への取り組み方だったり考え方、人生の先輩として、僕自身もっと子ども達に伝えられることがあったのではないかと、必死に白球を追いかける子ども達の姿を見て思いました。

僕自身もっともっと勉強して、子ども達と一緒に喜べるように努力していきたいと、そんな気持ちになったのは、母校の後輩たちの躍進が、自分が学んできた野球への自信に繋がったからかもしれません。僕自身、高校だけでなく、小学校、中学校、大学と本当に素敵な指導者と巡り会って、野球に打ち込んできました。教わってきたことを少しでも広島の子ども達に伝えていければ、新しい道が開けるかもしれませんね。」

まだ公式戦で勝ったことがないという、オール広島ガールズ(中学生)、ガールズ広島(小学生)。これからも、オール広島ガールズ、ガールズ広島、三雲曉さんに注目です。

女子チーム活動の様子(球団提供)

 

 

【カーネクストpresents 第9回 WBSC女子野球ワールドカップ・グループB in 三次】

■大会概要
期間:9月13日(水)~17日(日)※予備日18日
会場:みよし運動公園野球場「三次きんさいスタジアム」(三次市東酒屋町10493番地)
参加チーム:日本、台湾、ベネズエラ、キューバ、プエルトリコ、フランス

ワールドカップのグループステージは、大陸予選を勝ち抜いた12の国と地域が、6チームずつグループA(カナダ・サンダーベイ)とグループB(広島県三次市)に分かれて総当たり戦で戦います。
各グループ上位2チームとワイルドカード枠1が、2024年にカナダ・サンダーベイで開催されるファイナルステージの出場権を得ます。今回、グループBのワイルドカードは、第3位のチームに与えられることが決定しています。

■関連サイト

カーネクスト presents 第9回 WBSC女子野球ワールドカップ・グループB特設サイト(https://www.wbwc-stageb2023.jp/)
三次市(https://www.city.miyoshi.hiroshima.jp/soshiki/8/13293.html
三次観光推進機構(https://www.miyoshi-dmo.jp/wbsc-9th/
世界野球ソフトボール連盟(WBSC)(https://www.wbsc.org/ja

HP:https://www.home-tv.co.jp/wbsc2023/

CarpCarpCarp編集部 澤井健司

 

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