捕手専念でたどりついた「443」 坂倉将吾の井端J入りに恩師は|カープ道リレーコラム第26回

ライター/辻健治(朝日新聞社)

 

プロ野球選手として「一人前」になったと周囲から認められる指標の一つが、野手であれば規定打席への到達だろう。

規定打席は、選手が所属するチームの試合数×3.1(端数は四捨五入)で算出される。日本のプロ野球は近年、両リーグとも143試合制で行われているため規定打席は443打席となる。

個人成績のランキングは「規定打席以上」と条件つきで示されることがほとんど。443打席に到達すれば、レギュラーに定着した証しとも言える。

今季のカープで規定打席に達したのは、打席数が多い順で菊池涼介、秋山翔吾、坂倉将吾、西川龍馬の4選手だ。その中でも私は最年少の25歳、坂倉将吾選手に注目したい。

 

クライマックスシリーズのファイナルステージ第1戦で、先制適時打を放つ坂倉将吾(朝日新聞社提供)

 

捕手として規定打席に到達

坂倉選手は9月29日、チームの今季141試合目となった中日戦で自身3年連続の規定打席に到達した。

シーズンの大半を捕手としてプレーした選手の到達は、カープでは2019年の會澤翼選手以来4年ぶりだ。

この日の試合後、坂倉選手に聞くと「目標にしていたというか、数多く試合に出た証しだと思うので、良かったです」。かみ締めるように言った。

近年、複数の捕手を併用するチームがほとんどだ。守備での負担の大きさが考慮され、バッテリーを組む投手との相性によっても起用方法が変わる。

昨シーズン、捕手として規定打席に到達したのは12球団で中日の木下拓哉選手しかいなかった。捕手にはハードルが高い数字だ。

坂倉選手も昨季までは、持ち味の打力を生かすために一塁手や三塁手での出場が多かった。

7年目の今季は志願して「本職」の捕手に専念。ブランクを埋めるため、石原慶幸バッテリーコーチらとともに鍛錬を重ねてきた。

 

石原慶幸バッテリーコーチ(左)の指導を受ける坂倉将吾(朝日新聞社提供)

 

試合中にベンチで投手とコミュニケーションを図ったり、熱心にメモを記したりする姿が印象に残る。

新井貴浩監督は坂倉選手について「捕手に戻って最初のシーズンで本当によく頑張ってくれた。もっと苦労するかと思ったけど、想像以上に頑張ってくれている」とたたえた。

ただ、打撃に影響が出た。打率2割6分6厘、12本塁打、44打点はいずれも昨季より成績を落とした。

「出ている数字が実力。もっともっと練習して貢献できるようにと思っています」と坂倉選手は話した。

 

一番難しいポジションをやりきった

私はかつて、東京で高校野球の取材を担当していた。伝統校の日大三高で1年秋からレギュラーだった坂倉選手の姿を3年夏まで見届けた。

縁あってカープ担当になった2021年、坂倉選手がリーグ2位の打率3割1分5厘をマークし、その成長ぶりに驚いた。今シーズンは、坂倉選手が望み続けていた捕手での規定打席到達を目の当たりにして、感慨深いものがある。

カープでの今シーズンは終わったが、坂倉選手に吉報が届いた。11月16日に東京ドームで開幕する「アジアプロ野球チャンピオンシップ2023」の日本代表(侍ジャパン)に選出された。

日大三高で坂倉選手を指導した小倉全由(まさよし)さんは「キャッチャーの坂倉として周りは見てくれていたんだなって、それだけ評価されたんだなというのが一番うれしいですね」と話す。

「プロの選手の中では正直言って体が大きくもないし、それでいて一番難しいポジションをやりきったというのは大したもんですよね」と小倉さんは、今シーズンの坂倉選手の奮闘をたたえた。

侍ジャパン入りが決まり、小倉さんは坂倉選手へ伝えたという。「すごいな、日本を代表する選手になったんだな。みんなから注目されるから、どこを見られてもかっこいい男でいてくれよ」

坂倉選手は「野球人生で初めての日本代表なので緊張するとは思いますが、がむしゃらに頑張ります」と言った。

オーバーエージ枠での選出のため、チームでは年長者となる。「普段できない話もあるでしょうし、選手それぞれの考えがあると思うので、僕も聞かれたら答えたいですし、どんどん聞いていきたいなと思います」

日の丸をつけて臨む国際試合での経験は、カープにとってもいい影響を及ぼすに違いない。赤ヘルの攻守の要は、どんな「実りの秋」を迎えるのだろうか。

 

CarpCarpCarp
広島ホームテレビで毎週水曜深夜に放送されている「カープ道」。カープを知らない、興味ない、乗っかりたい人必見のカープ学習番組です。CarpCarpCarpでは、毎週木曜日に番組出演者によるリレーコラムを掲載中です。

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