滝田一希が歩み始めたプロ1年目。天国にいる母もずっと見守ってくれている

ドラフト会議で自分の名前が呼ばれた。あの時のことは鮮明に覚えている。人生で一番嬉しかった瞬間かもしれないとあの瞬間を振り返った。

北海道北広島市にある星槎道都大学からカープに入団した滝田一希投手。

売りは球威のある真っ直ぐとブレーキの効いたチェンジアップのコンビネーションで打者を打ち取ること。

性格の面は人見知りだが、優しく穏やかな人物だ。

 

 

背番号は“30” に決まった。

「すごく嬉しかったです。一岡さん(一岡竜司)が10年もの間付けていた番号なので、最初は自分に見合うかなと不安でしたが、今では背番号を見るたびに気が引き締まります」。

念願だったプロ野球選手。だが、実は子供の頃に抱いていた目標はプロ野球選手ではなく“審判員になりたい”というものだった。

「中学生の頃くらいから審判になろうと考えていた時期がありました。当時は身体も小さくヘタクソだったので、まさか自分なんかがプロ野球選手にと思っていたので、将来野球に携わりたく興味を抱くようになった感じです」。

大学の卒論は「審判のストライクゾーンと、投手が思っているストライクゾーン」という視点で1万2千字以上の文章を書き上げた。

 

■ 母との突然の別れ

ヤンチャでイタズラ好きで、毎日、母・美智子さんから怒られていたという少年時代。

兄の影響で小学3年生の頃に野球を始めた。

そんな滝田ら6人兄弟を女手一つで育ててくれた母・美智子さん。

朝5時から深夜1時までほぼ毎日働き、家に帰ってきてからも家事に追われてほとんど休む時間もなかったが、子供たちのためにと、沢山の愛情を注いでくれた。

 

しかし、そんな最愛の母との別れは突然だった。2022年5月、急性心筋梗塞で母・美智子さんは52歳という若さで帰らぬ人となった。

あまりにも突然のことで、ショックが大きすぎ、受け止めきるのは難しいことだった。

「もう今までのようにはできないかも」と一度野球を辞めようとも考えた。

野球から気持ちが離れ、悩んでいた滝田の姿を見かねた野球部の二宮監督は想いを伝えた。

『頑張ってプロ野球選手になって、契約金でお母さんの立派なお墓を建ててやれ』

高校を卒業し、地元を離れて星槎道都大へ。

心配する母からはずっと反対されていたが、どうしても野球を続けさせてほしいと説得し、18歳で地元を飛び出した。

あのとき、家を出る前に母から言われた言葉は「途中でやめるな」だった。

結局どんなときも、最後に背中を押してくれたのは母の存在だった。

 

応援してくれていた母のために、そして支えてくれた家族、監督やチームメイトのために。

滝田の夢はもう一度“プロ野球選手”となった。

 

■ ドラフト3位で広島カープに

ドラフト会議でカープから3位指名を受けて、家族みんなが喜んでくれた。

天国にいる母もきっとそばにいて誰よりも喜んでくれていただろう。

そんな母には「やっと立派なお家(お墓)を建てられるよ」と報告をした。

 

2024年1月13日の新人合同トレの様子

 

滝田は小さい頃から特別な日には必ず母が作ってくれた特製オムライスを食べていた。

「誕生日のときに『今日何食べたい?』って聞かれたら毎回『オムライス』って答えてましたね(笑)。甘くて、とろとろの卵が大好きで、すごく特別なものです。一番食べたときはお米5合分のオムライスを作ってもらいました(笑)」。

ドラフトで指名を受けたあとも姉にオムライスを注文し、大好きだった母の味の特製オムライスを作ってもらった。

 

滝田は大学時代、試合など遠征には全て母の遺骨が入ったネックレスを鞄などに入れて持って行っていた。

「母が常に近くで見てくれていると思っているので、試合でもいつもキチンとしていないといけないなと思います」。

 

そして、登板時の欠かさないルーティーンもある。投球練習終わりで一度プレートを綺麗にして、その時に思っていることをプレートに込めてから投げる。

よく“投手とは孤独な生き物だ”と耳にするが、滝田はマウンド上で冷静に頭の中で気持ちを作る。

そんな滝田には大切にしている一曲がある。

NOBUさんの「たのしみなさい。」という曲だ。

母が亡くなってから聴く機会があり、歌詞が心に響いた。

 

『大きな夢を持ちなさい
そして必ず自分を貫きなさい
あなたから強さを学びました

人の努力を知りなさい
人の痛みを知りなさい
困難を挫折をたのしみなさい
人生の全てをたのしみなさい
最後の最後に咲かせなさい

「あなたを産んで良かった」と
僕を生んでくれてありがとう。』

 

困難から再び立ち上がることができた滝田一希。強い気持ちを背負い、プロ野球の世界へ。

家族、地元のみんなが楽しみにしている。そして天国からも大好きなお母さんがずっと見守ってくれている。

 

ライター・ゴッホ向井

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