田中広輔 完全復活へ「背負っていたものを軽くして。楽しんで野球をしたい」

ここまで打率1割台ながら、印象に残る活躍をしている田中広輔(33)。全盛期と比べると未だ完全復活とは言えないかもしれないが、存在感は高まってきている。今シーズンと昨シーズンまでで、田中に起きたある変化に注目した。

 

■「チームのために」という言葉に逃げていた

リードオフマンとして、カープ黄金期を支えた田中。しかし、近年は故障の影響や、若手の台頭で出場機会が激減。昨シーズンは、自己ワーストとなる41試合の出場にとどまった。この数年、田中はどう感じていたのだろうか。

「ここ何年かは、自分が活躍するより、チームが勝たなければと思っていたので、どこかそこに逃げていた部分が自分の中にあったかもしれません。(それもあって)今の自分の状態から目を背けていて、それじゃあ辞めるしかないなという状態まで来たので」。

引退が頭をよぎるほどの田中を変えたのは、現役時代、ともに黄金期を支え合った、新井監督の言葉だった。

「就任直後に話をさせてもらうときに、目を見て『まだ戦力だから期待しているぞ』と言ってもらったのがすごくうれしくて、そこからは何が何でもやってやろうという気持ちになっています」。

■今シーズンの田中の変化

迎えた今シーズン、キャンプのときから田中の言動に変化があった。

「チームのためにという思いはもちろんあるんですけど、そうも言っていられなくなったことは事実なので、自分のことをしっかりやらなきゃという気持ちで逆に楽しいというか、ワクワクしています」。

キャンプ序盤に、田中の口から出たこの言葉。シーズンが始まったいま、改めてこの言葉の真意を聞いてみた。

「プロ野球の1軍は勝つことが優先されますし、特に1番を打っていたので、色々なことを考えながらチームが勝つためにずっとプレーしていたので、自分の中でその考えは持ちつつ、背負っていたものを軽くしようと思うようになりました。そうしたら、本来好きだった野球をやっているので、もう一回そういう気持ちを持ちながら、遊び心を持ちながらやりたいと思いました」。

田中が野球を楽しみたいと思ったのは小学生以来だという。それほど「勝つこと」にこだわる野球人生だった。

 

そして迎えた4月16日のヤクルト戦。4点ビハインドでの6回、2アウト満塁のチャンスで、田中は劇的な同点ホームランを放った。4年ぶりとなるグランドスラム。こぶしを握り締め、ダイヤモンドを回る姿に、挫折を味わい、引退が頭をよぎるほど苦しんだかつての面影はなかった。

シーズン前、まだ戦力としてみていると言っていた新井監督も興奮が抑えきれず、「彼が今年にかける気持ちは、私が一番よくわかっていましたので、彼の力はまだまだチームに必要ですし、血が沸騰するようなホームランでしたね」。と田中の満塁ホームランを振り返った。

 

挫折を乗り越えた先に射した光。3連覇を知る男があの頃の輝きを再び取り戻すために、がむしゃらに、楽しみながらひた走る。

「1年間しっかりと野球がしたいですね。良くても悪くても、最後まで歯を食いしばって、気持ちがぶれずにやりたい」。

優勝を知る、頼もしい男の完全復活まであと少しだ。

 

広島ホームテレビ『ひろしま深掘りライブ フロントドア』(土曜13:00) 4月29日放送

 

CarpCarpCarp編集部

 

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