カープ選手も躍動した夏の甲子園 あの仕事、スポーツ記者が務めます|カープ道リレーコラム第14回

ライター/辻健治(朝日新聞社)

 

私はこの夏、「カープ道」のスピンオフ番組として毎年恒例となっている「高校野球道」に初めて出演しました。

「夏の甲子園」として親しまれている全国高校野球選手権大会は、朝日新聞社と日本高校野球連盟が主催しています。

カープにも出場経験者が数多くいるこの大会は今年、第105回大会を迎えて8月6日から阪神甲子園球場(兵庫県西宮市)で熱戦が繰り広げられています。

今回はこのコラムもスピンオフとして、主催者の朝日新聞社ならではの仕事をご紹介します。

 

■注目されるスコアボードの赤い「H」

阪神甲子園球場=朝日新聞社提供

 

私を含め、弊社スポーツ部所属の記者が担当しているのが、試合の公式記録員です。

バッターが打った打球がヒットなのか、エラーなのか。バッテリーミスがワイルドピッチなのか、パスボールか。などなど、一つ一つのプレーを判断していきます。

選手がヒットを打つと、甲子園球場のスコアボードには赤く表示される「H」の文字。あの文字は、公式記録員がボタンを押すと点灯する仕組みになっています。

バックネット裏の記者席で試合を見ている公式記録員は、実は試合中、結構騒がしくしています。

「ボール!」「空振り!」などと、ピッチャーが投げた球を1球ずつジャッジに従って口にしながら、手書きでスコアブックに記入。その隣に座り、サポートしてくれる大学生のアルバイトが、パソコンを使って公式スコアを清書する際に間違いがないようにするためです。

油断せずにボールの行方を追い続け、ボタンを押す。この繰り返しなのですが、忘れてしまいそうになるのがホームランが飛び出した時。打球がスタンドに入ったのを確認しつつ、「大会第○号」と記者席全体に向けてアナウンスをしなければなりません。ホームランも当然ヒットの本数に含まれます。ここでも「H」のボタンを押す必要があるのです。

昨年夏の第104回大会で、私も公式記録員を数試合務めました。中でも印象に残っている試合が、八戸学院光星(青森)―愛工大名電(愛知)の2回戦です。

五回、八戸学院光星の佐藤航太選手が思い切り引っ張って放った打球は、左翼フェンスに直撃。跳ね返った打球を左翼手が追う間に、佐藤選手は三塁を蹴ってヘッドスライディングで本塁へ。

私は佐藤選手と野手、そしてボールの動きを凝視していました。結果として、この一打は夏の甲子園で4年ぶりのランニングホームランに。佐藤選手が本塁生還後、すぐに「大会第14号」とマイクを使ってアナウンスし終えて、大きく息をつきました。

アナウンスにも気を配ります。ピッチャー交代時には、マウンドを降りた選手の投球数や失点、自責点を読み上げます。

また、五回終了時にはその試合の観衆の数、夕方の試合では球場の照明が点灯した時間や線審に加わった審判員の名前など……。タイミングを計りながら、聞きやすい声ではっきりと、と私は心がけてマイクを握ります。

実際に公式記録員を務めて感じたのは、集中して試合を見ていても、記事を書くために見るのと公式記録をつけるために見るのとでは全然違うということです。

公式記録員は目の前で起こったプレーを正しく判断し、記録に残していきます。物事を記号化して見ているような感覚になって、大歓声に包まれるプレーでも淡々としている。その反動なのか、プレッシャーからの解放感からなのか、試合後はヘトヘトです。どちらのチームが勝ったか分からなくなる不思議な状態になることもあります。

私は今年の夏もカープの取材から一時離れ、甲子園に通い詰めています。そして公式記録員を何試合か務める予定です。

読者の皆さんには高校球児たちの試合を見守りながら、甲子園のスコアボードのランプにも注目していただけたら幸いです。

 

CarpCarpCarp
広島ホームテレビで毎週水曜深夜に放送されている「カープ道」。カープを知らない、興味ない、乗っかりたい人必見のカープ学習番組です。CarpCarpCarpでは、毎週木曜日に番組出演者によるリレーコラムを掲載中です。

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